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大阪高等裁判所 昭和38年(う)314号 判決 1963年10月10日

主文

原判決中被告人西岡定雄、同岡田富蔵、同梶原秀美、同宮島清市、同近藤定夫に関する部分を破棄する。

被告人西岡定雄、同岡田富蔵、同梶原秀美を各懲役一年二月に、被告人宮島清市、同近藤定夫を各懲役一年にそれぞれ処する。

但し、右被告人五名に対し本裁判確定の日からいずれも四年間右各刑の執行を猶予する。

訴訟費用中、原審における被告人岡田富蔵、同梶原秀美の国選弁護人に支給した分は右被告人両名の平等負担、当審における被告人岡田富蔵の国選弁護人に支給した分は同被告人の負担、当審における証人岩本塚一、同斎藤和男に支給した分は被告人宮島清一、同近藤定夫、同西岡定雄、岡田富蔵の連帯負担とする。

理由

本件各控訴の趣意は、記録に綴つてある被告人宮島清市の弁護人鈴木正一、被告人近藤定夫の弁護人岡田善一、被告人西岡定雄の弁護人金子新一、被告人岡田富蔵の弁護人坂本好男、被告人梶原秀美の弁護人和田一夫のそれぞれ作成にかかる各控訴趣意書(但し金子弁護人において同弁護人の控訴趣意第一点はこれを撤回する旨釈明)に記載のとおりであるから、いずれもこれを引用する。

岡田弁護人の控訴趣意一について。

論旨は被告人近藤のために原判決の犯罪一覧表番号70、73、79、80の窃盗について事実誤認ひいて法令適用の誤りを主張し、右各番号のガソリンはいずれも原審相被告人佐藤武が運転していたタンクローリー車に積んであつたものであるが、同車のタンクには封印が施されていなかつたから、同タンク内のガソリンは右佐藤被告人が占有していたものであつて、被告人近藤らが右被告人佐藤と共謀して、それぞれ右タンク内のガソリンを抜き取つた行為はいずれも刑法第六十五条第二項により同法第二百五十二条の単純横領罪に問擬すべきものであるのに、原判決がこれを窃盗であると認定して同法第二百三十五条を適用したのは誤りであるというのである。

よつて本件記録並びに原審及び当審において取り調べた証拠を精査して検討するに、原判決の対応証拠及び当審における証人斎藤和男の供述によると、原判示の犯罪一覧表番号70、73、79、80の揮発油(ガソリン)はいずれも原審相被告人佐藤武の運転するタンクローリー車のタンクに入つていたものであることは所論のとおりであるけれども、右揮発油の運送途中従つてこれが抜き取られた際には、いずれの場合においても、タンクの注入口バルブに右各揮発油の所有者である日本漁網船具株式会社の封印が施されてあつたことが認められる(原審における被告人西岡、相被告人佐藤武のこの点に関する供述は措信しない)から右封印にかかるタンク内の揮発油の占有は右会社にあつて、同タンクローリー車の運転手たる右佐藤にはなかつたものといわねばならない。従つて前記犯罪一覧表70、73、79、80の揮発油の抜取行為が窃盗罪に該当することは明白であり、原判決が右各所為を窃盗と認定しこれに刑法第二百三十五条を適用したこと自体には、所論のような事実誤認も法令適用の誤りもない。論旨は理由がない。

金子弁護人の控訴趣意第二点について。

論旨は被告人西岡のために原判決の理由不備を主張し、原判決は、その本文において被告人西岡らはそれぞれ原判示別紙犯罪一覧表記載のとおり「昭和石油株式会社大阪油槽所、日本漁網船具株式会社桜島油槽所から引渡を受けタンクローリー車によつて運送途中の右両会社の占有管理する揮発油を抜き取り窃取した」と判示しているが、その犯罪一覧表には被害者として河合長雄、岩本塚一、斎藤和男の三名の氏名のみが記載されており、右本文によると占有管理権を侵害された会社は二者であるのに、一覧表では被害主体は三者であつて明らかにくいちがつており、また右三名は個人としての表示であつて右各会社との関係は全く不明である。しかも原判決は右両会社から揮発油の「引渡を受け」と判示し(これは民法上の占有の移転を意味する)ながら、その引渡を受けた運転者になお占有がなく右両会社に占有があり、右揮発油の抜取をもつて窃盗であると認定していて、その判文は前後相矛盾しているというのである。

よつて検討するに、原判決はその罪となるべき事実の本文において、被告人西岡らは三名ないし六名共謀のうえ、原判示別紙犯罪一覧表記載のとおり「昭和石油株式会社大阪油槽所、日本漁網船具株式会社桜島油槽所から引渡を受けタンクローリー車によつて運送途中の右両会社の占有管理する揮発油を抜き取り窃取した」と判示しながら、その別紙犯罪一覧表においては「河合長雄」「岩本塚一」「斎藤和男」の三名を被害者として表示していることは所論のとおりであつて、右本文の判示によると本件各揮発油の占有者従つてその占有の被侵奪者は右両会社のうちのいずれか一方であることになる(もつとも本文のみによつてはどの揮発油がいずれの会社の占有に属していたものであるかは特定できない)のに、右犯罪一覧表の記載によると被害者は前記三名個人であることになるのであるけれども、その被害主体が本文では二者であり、犯罪一覧表では三者であることの理由は判文上不明であり、しかも右三名の個人がいかなる意味で被害者であるのかも全く不明である。もし右三名が直接被害者ではなく被害会社の代表者であるというのであればその旨の判示が必要であり、また右三名自身が各揮発油の所有者であるというのであれば、当初本文において被害揮発油の支配関係を占有関係によつて判示している以上、犯罪一覧表記載の被害者は所有関係によつて表示されていることを特に明示しなければ、本文との対比上右三名がいかなる意味で被害者であるのか判然しない(しかも本件証拠を検討すると、「河合長雄」は内外砿油株式会社の社長であつて、同会社は犯罪一覧表のうち同人が被害者として表示されている分の揮発油の実際の運送に当つていた会社であり、「岩本塚一」は株式会社岩本商店の社長であつて、同会社は犯罪一覧表のうち同人が被害者として表示されている分の揮発油の届先であり、また「斎藤和男」は前記日本漁網船具株式会社大阪営業所の桜島油槽所の責任者(社員)であるに過ぎず、右三名の者らは本件各揮発油の占有者でも所有者でもないことが認められる)。結局原判決はその罪となるべき事実の本文とその引用にかかる犯罪一覧表との間に、本件各揮発油の窃盗の各被害者の判示認定に矛盾があつて、個々の窃盗についてそれぞれ何人の占有又は所有が侵害されたものであるか不明であるというほかはないから、その余の論点について判断するまでもなく、原判決にはその事実理由にくいちがい又はその理由を付さない違法があるといわなければならない。従つて原判決中被告人西岡に関する部分は、破棄を免れない。論旨は理由がある。

そして原判示事実は右被告人西岡と被告人宮島、同近藤、同岡田、同梶原ほか三名とが、三名ないし六名で共謀して原判示犯罪一覧表記載のとおり多数回にわたつて揮発油を窃取した旨を認定しているものであるところ、右被告人宮島、同近藤、同岡田、同梶原も原判決に対して控訴の申立をしており、右各被告人らの弁護人の控訴趣意中には右の点に関する論旨が含まれていないけれども、前示破棄の理由は共同被告人たる右被告人四名にも共通であると認められるので、刑事訴訟法第四百一条により原判決中被告人四名に関する部分もまた破棄すべきものである。

よつて各弁護人の量刑不当の控訴趣意に対する判断をするまでもなく、刑事訴訟法第三百九十七条第一項、第三百七十八条第四号により原判決中被告人宮島、同近藤、同西岡、同岡田、同梶原に関する部分を破棄し、同法第四百条但書により更に判決する。

(罪となるべき事実)

被告人宮島清市、同近藤定夫、同西岡定雄、同岡田富蔵、同梶原秀美は、右五名共謀又は他に佐藤武、伊藤俊一、中川宣夫を加えた八名のうちの三名ないし六名共謀のうえ、昭和三十五年四月十八日頃から同年十月一日頃までの間にわたり、原判決末尾添付の犯罪一覧表(但し同表中、見出欄に「被害者」とあるのを「被害者(所有者)」と、右被害者欄に「河合長雄」「岩本塚一」とあるのをいずれも「昭和石油株式会社(大阪油槽所)」と、「斎藤和男」とあるのを「日本漁網船具株式会社(大阪営業所)」とそれぞれ訂正のうえ、これをここに引用する)記載のとおり、大阪市此花区春日出町百五十一番地の九森上工業所ガレージ内ほか四ヶ所において、昭和石油株式会社大阪油槽所又は日本漁網船具株式会社大阪営業所桜島油槽所からタンクローリー車によつて他に運送中の右両会社所有の揮発油をそのタンク内から抜き取つて窃取したものである。

(証拠の標目)≪省略≫

(法令の適用)

被告人ら五名の判示所為は、いずれも刑法第二百三十五条、第六十条に該当するところ、以上は同法第四十五条前段の併合罪であるから、同法第四十七条本文、第十条により各犯情の最も重いと認める前示犯罪一覧表番号71の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人西岡、同岡田、同梶原を各懲役一年二月に、被告人宮島、同近藤を各懲役一年にそれぞれ処し、右被告人らの犯情はいずれも決して軽くはないが、本件被害の殆んど大部分について弁償がなされていること、被告人宮島、同西岡に各道路交通取締法違反罪による罰金又は科料各一犯があるほか懲役刑禁錮刑の前科がなく、その余の被告人には全く前科がないことその他諸般の情状により刑法第二十五条第一項を適用して被告人五名に対し本裁判確定の日からいずれも四年間右各刑の執行を猶予し、訴訟費用については刑事訴訟法第百八十一条第一項本文により主文第四項掲記のとおりそれぞれこれを被告人らに負担させることとする。

よつて主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 奥戸新三 裁判官 竹沢喜代治 野間礼二)

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